木村哲郎のブログ

作曲・指揮の木村哲郎のブログです。

作曲日記:オペラ「パコと魔法の絵本」の作曲を振り返って

 私が作曲しました、オペラ「パコと魔法の絵本」の初演が近づいてきました。ブログのほうで、今回の作曲について振り返ってみようと思います。

オペラ「パコと魔法の絵本」は、後藤ひろひとさん原作の舞台作品で、役所広司さん主演で映画化もされた有名な作品です。あらすじは以下のツイートをご覧ください、とても心に残る素晴らしい作品です。

 

昨年の春頃、神奈川県立生田高校グリークラブから、この作品のオペラ化を依頼されました。このあたりの話は生田高校グリークラブのブログを見ていただければと思います。

 

 

 

オペラ化の許可をいただき、台本を書き始めたのが昨年の9月頃。私としては約8年ぶりのオペラ制作が始まりました。

今回は、久しぶりのオペラ制作ではありましたが、具体的な作業方法を改善して今後の方式を確立できるようにと思い、いろいろと試してみようと思っていました。

まず、台本の作成ですが、今回は2時間を超える舞台作品を1時間ほどのオペラにするということで、大幅なカットが必要になりました。私が今まで作ってきたオペラは、それほど大幅なカットはしなくてよかったので、今回のこの作業、私にとって初のチャレンジでした。予想通り、かなり苦労しました。「台本はDVDなどから文字おこししてください」とのことでしたので、手元に台本があるわけでもなく、舞台版DVD、映画版DVD、小説版の3つを比較しながら、物語の構造を分析して、どうしてもカットできないエピソードなどを確認、整理していきました。ちょうど秋頃は、指揮のほうの仕事が忙しくなる時期で、結構な曲数を抱えながらのこの作業はしんどかったです。どうも、指揮で使う頭と作曲で使う頭は別のようで、これを切り替えるのと気分転換を兼ねて台本作成は、近所のファミレスで主に行いました。こういうのも久しぶりでしんどいなりに楽しめました。

台本は、昔は横書きの原稿用紙に手書きで書いていました。もちろんそれをパソコンで入力してもらっていたのですが、今回は誰も手伝ってくれないので、はじめからパソコンで入力して行くか迷いました。最終的には、原稿用紙に手書きしながら、パソコンで入力するという、まわりくどいやり方になりました。

パソコンでは、テキストエディタというものを使います。ただ字を入力していくだけならワードとかを使うよりこういったもののほうがシンプルでやりやすいです。私はテキストエディタは「EMEDITOR」というのを普段使っているのですが、今回は外出先での作業でしたので、いつも持ち歩いているChromeBookで使えるテキストエディタにしなくてはいけませんでした。ということでいろいろと調べた結果、「Writebox」というウェブブラウザで入力ができるテキストエディタを使用しました。これは、自動でDropboxに保存してくれるなかなか使いやすいものでした。白文字に背景を黒にした画面に設定して、なかなかかっこいい画面。ずっと見続ける画面なのでかっこいいと心が少し軽くなります。ここですべて入力して、完成後にワードに貼り付ける感じにしました。

「Writebox」こんな感じの作業画面。

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さて、苦しんだ末に12月初め頃、ようやく台本を完成。この段階ではまだ作詞はしていませんでした。余裕があるときは台本作成の時に作詞もするのですが、今回はそれができず、ほんのいくつかを除いて、作詞しながら作曲することになりました。

作曲の作業も、大幅に見直し。新しい方法を開拓できればといろいろ考えました。昔は、もちろん手書きですべて行っていました。下書きをマルマンのルーズリーフで書いて、それをマルティーノの20段だか22段の五線紙に清書していました。梅雨時は紙が水分で丸まってしまって扱いが面倒だったのを覚えています。夜22時くらいまでスケッチをして、明け方まで清書するというのを繰り返していました。若かったけどさすがに身体が痛くなりました。


確か2007年か2008年に楽譜作成ソフト「Finale」を使うようになりました。
本来はオーケストラとか、パート譜が必要な編成の楽譜作成にメリットがあるソフトだと思いますが、ちょっと勢いで購入しました。オペラ作曲では、字を書き込む上で、いまいち使い方を理解してなくて最初は混乱しましたが、さすがに最近はだいぶ慣れました。楽譜ソフトの一番のメリットは、私の場合、楽譜をPDFにしてメールで送れることですね。昔はよく速達で送っていました。送料がかからず、すぐに届くのは素晴らしい。あと、どんな音になるのかとりあえず確認できるのもやはり便利です、立ち稽古用の音源も作れますし。そんな感じで、いつの間にか楽譜ソフトへの依存度が高くなり、五線紙を全然使わなくなりました。ただ、それには自分の中で違和感もあって、今回はこれを見直したいと思いました。
「Finale」の作業画面。

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まずスケッチの取り方。ここ最近は、いきなりFinaleに入力していましたが、このあたりを考え直しました。まず最初に試したのがDAW(作曲ソフト)にスケッチをすること。メロディーを入れて、ハーモニーつけたりとかやってみましたが、どうもこれは私には合わないようでした。せっかくいくつかDAWソフトを買ったのに、PCの中で眠っております。やっぱり自分は楽譜で考えるタイプだなと思い、初心に戻り、久し振りに手書きでスケッチをする事にしてみました。そうしたら、これがなかなかよい!逆に新鮮でした。手書きの時は特に意識していませんでしたが、今回再発見したのは、楽譜を書くときに自分が歌いながら書いているということ。昔、電車の中で作曲しているときに、隣の人に歌っているのがバレないように苦労していたのが思い出されました。ああ、そうだったなあ歌いながら書いてたなあ・・・。楽譜ソフトだと、MIDIキーボードで入力するので、結果歌わなくなります。また、音符を入力するとソフト側で音が出るんですよね。設定次第で鳴らないようにも出来るのですが、楽譜ソフトを使うと歌わなくなってしまうのです。楽譜ソフトを使い始めた頃、音が軽くなってしまうような感覚があったのですが(今も)、もしかしたらこういうことと関係があるのかもしれません。ということで、今回は手書きでスケッチを取ることにしました。

そして更なる工夫。昔は、スケッチの段階で、なるべく音を書き入れて、場合によっては、ほぼ完成、後は清書だけというところまで書いてしまっていましたが、これを段階に分けるようにしました。まず手書きでスケッチして、それをFinaleに入力、そして次の日に、入力したスケッチを元にアレンジ、更に次の日にレイアウト、清書としました。なぜこのようなことをするのかというと、メロディーを書きながら伴奏パートも書くと、その伴奏パートにその後のメロディーが影響を受け過ぎるような気がしていたからでした。そんなに大したことではなさそうなのですが、今回このようにしたことで、自分の作業をとても快適にしてくれました。

後は、変に工夫しないこと。浮かんだメロディーを素直に受け入れることを大事にしました。若い頃は、「最高のメロディーを作るぞ!」ぐらいに思っていましたが、変に作りこんだメロディーは大体うまく行かず、あまり考えずサラサラと作ったメロディーのほうがうまく行きました。たしか久石譲さんが本の中で、いい曲が書けるような環境を作るようにしている、というようなことを書いていました。気分転換とか、そんなようなこととかも。自分も演奏するときと同じで、なるべくいいコンディションで作曲しようと思いました。なるべく他の仕事のことは考えない。ある程度音楽以外のことも気分転換のためにやる。美味しいものを食べる。よく寝る。お酒は控えめに(結果、少し痩せました)。こうしたことを大事にしながら作業を行うと、せいぜい長くても3、4時間くらいしか作曲できません。昔は起きている時間はずっと作曲していたので、こんな短時間でできるかだいぶ不安でしたが、最終的にはこのやり方で良かったと思いました。

作曲期間は約1ヶ月半、1月末に完成しました。
現在、生田高校グリークラブのみなさんが一生懸命稽古してくれています。私も演出面などお手伝いさせていただいています。これも久しぶりでとても楽しい!

 

 

 

さて、このような工夫で作られたオペラがどんな上演になるか楽しみです。
生田高校グリークラブのみなさん、どうぞよろしく!